2026.03.30 第17回衛生コラム 「日常生活で無理なくできる感染対策」を大切に ~マスク、手洗い、うがい、は様々な感染症対策に有効~

アルちゃんが、感染症に対する疑問を専門家の先生にお尋ねします!

第17回 衛生コラム

「日常生活で無理なくできる感染対策」を大切に
~マスク、手洗い、うがい、は様々な感染症対策に有効~

 

 今シーズンのインフルエンザ(2025/26年)は、昨シーズン(2024/25年)よりも遅い11月頃からインフルエンザの流行が始まり、12月に大きな流行がみられ、また年が明けてから再び流行がみられました。そうした中、「今季のインフルは例年と何が違うの?」「今季のワクチンは効かないと言われるが本当なの?」など、様々な疑問の声も聞かれます。
 そこで、感染症の専門家である川崎市健康安全研究所の岡部信彦先生に今季のインフルエンザの特徴や、我々が普段から心がけるべき対策などを伺いました。


新型コロナウイルス感染症の流行以降、インフルエンザの流行パターンは毎年違う


――今季のインフルエンザは、例年と流行のパターンが違うのでしょうか?

岡部先生 インフルエンザはコロナ前までは通常11~12月頃に増え始め、年が明けると大なり小なりの流行となり、1月から2月にかけてピークを迎える。その後は落ち着いて、4~6月頃にはほとんど発生が見られなくなる。それが一般的なパターンでした。
 しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19 以下コロナ)が流行してから、そのパターンには大きな変化が見られています。コロナの大流行時には、インフルエンザの流行はほとんど見られなくなりました。その後、コロナが(2類感染症から)5類感染症に変更されるあたりから、小流行が見られるようになり、昨シーズン(2023/24年)は、2023年の秋口から小流行があり、年明けから収まってきました。そしてこの2シーズン(2024/25年、2025/26年)は結構大きな流行となりました。
 昨季(2024/25年)は2024年12月に大きな流行がありましたが、年末には収まり、正月が明けた後も増えないままでした(コロナ以前は、1月に入ると増える傾向がありました)。
 一方、今季(2025/26年)は、前季よりも早い10月頃からから流行が始まり、10月末から11月にかけて最初の大きなピークが来ました。その後、いったん減少し、正月明けに2回目のピークが来ました。ヒトに感染するインフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3種類がありますが、流行的発生がみられるのはA型とB型です。今季(2025/26年)は1回目のピークはA型(A/H3:香港型)、2回目のピークはB型(ビクトリア型)が中心となりました。
 このように、コロナ前後でインフルエンザの流行パターンが変化していますが、このような変化にコロナがどのような影響を与えているのかについては、まだ科学的に明らかにされていません。「今後、どのようなパターンになるか?」という質問をよく受けますが、「流行の予測や見通しは難しい」というのが正直なところです。


インフルエンザの流行状況(引用元:国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/idwr/2026/idwr2026-09.pdf



――インフルエンザはA型よりも、B型の方が(症状が)軽いと聞いたことがありますが、本当ですか?

岡部先生 全体としてそのような傾向があるかもしれませんが、だからB型なら安心かというと、そうではありません。B型に罹った高齢者が肺炎になったり、重篤となって入院することもあります。小児ではB型の流行時にはやはり急性脳症といった重症合併症も発生します。A型でもB型でも、高齢者や基礎疾患を持つ人は、いったん感染したら(健康な人と比べれば)重い症状が出る割合が高くなるので、特に注意が必要です。また、一般的に「子どもはインフルエンザに罹りやすいが、そんなに悪くなることはない」と言われますが、インフルエンザが流行すれば、子どもたちの間で、熱性けいれんや肺炎、脳症を起こすことなどがあります。流行の型に関係なく、常に感染対策には気を配ってほしいと思います。



マスク、手洗い、うがい――簡単な対策を継続する
 


――私たちができる基本的な対策について教えてください。

岡部先生 コロナ大流行の最中には、インフルエンザだけでなく、ノロウイルスやマイコプラスなどの感染症も減りました。その理由の一つとして、人の動きが抑制されたことや、マスク・手洗い・うがいなどの衛生的な習慣がいきわたったことが大きく影響していると言われています。
 マスクや、手洗い・うがいは、様々なウイルスや細菌の感染症に対して共通の対策で、しかも簡単で安い。こうした「日常生活の中で無理なくできる感染対策」は、多くの感染症に対して、「完璧」ではありませんが、有効な対策であると言えます。
 極端なことを言えば、最も確実な感染対策は「人と会わないこと」「動かないこと」です。しかし、それでは社会生活が成り立ちません。「行き過ぎた対策」「日常生活に支障をきたす対策」ではなく、「日常生活を妨げない、無理せずできる対策」を続けることが大切です。
 加えてワクチンの使用を検討することや、必要に応じた薬の使用になります。あくまでも基本的な対策がまずきちんとできていることが重要で、「薬やワクチンがあるから何もしなくて大丈夫」という考え方は、賛成できません。

――「コロナ禍で手洗いなどが定着したので、インフルエンザも減った」と聞いたことがあります。

岡部先生 手洗いは、インフルエンザに対して「即効性のある対策」「完璧な対策」ではありません。しかし、継続的に「丁寧に手を洗う」といった行為を習慣づけることは、少し長い目で見て感染リスクを下げることにつながります。「きちんと手洗いをしている人」と「そうでない人」では、手洗いしている人の方が年間を通して呼吸器感染症に罹るリスクが低い、といった報告もあります。
 注意してほしいのですが「消毒剤さえ使えば手がきれいになる」というのは大きな誤解です。まず手指の表面に付いた汚れを落とさなければ、消毒薬の効果は期待できません。汚れを落としてから消毒薬を使用することを心掛けてください。


ウイルスが変異するとワクチンの効果が無くなる、とは言い切れない。変異の程度に注意を。
 


――「今年のインフルエンザワクチンは効きが良くない」と聞いたことがあります。

岡部先生 インフルエンザウイルス(特にA型)は頻繁に変異するので、毎年のように流行の型が変わります。少しだけ変異することを「連続的な変異」と言い、これは頻繁に起きることです。一方で、ときどき大幅な変異(不連続的な変異)が起きて、それらは「新型インフルエンザ」と呼ばれることもあります。今季、サブクレードKという型が確認されましたが、これは新型が発生したということではなく、A型(A/H3)の「連続的な変異」として起きたことです。
 たしかに、変異したウイルスにマッチしたワクチンを接種しなければ、十分な効果は得られませんが、変異が発生するとワクチンの効果が全くなくなるということではありません。変異の程度によっても異なるので、そこはきちんとデータを見て評価をする必要があります。今季の流行に関しても、K株の出現によってワクチンの効果に大きな変化があらわれたわけではありません。変異が起きたからワクチンはいらない、無用だ、というわけではありません。
 特に高齢者の場合は、感染者は少ないのですがいったんインフルエンザに感染したら重症になるリスクが高まります。ワクチンを接種することで、(接種しないよりも)重症化のリスクは明らかに下がります。子どもは、インフルエンザに罹る数は大人や高齢者に比べて圧倒的に多く、しかも大多数は何もなく回復しますが、多くの人が罹れば、普段の健康状態にかかわらず脳症や肺炎など重症になる子どもが出てきてしまいます。ワクチンで予防をする、ということは、そのリスクを下げることになります。無理にでもワクチンを、とはなりませんが様々な情報を踏まえて判断をしていただければと思います。

正しい情報を入手し、適切に備える

 

――様々な情報の中から、正しい情報、必要な情報を取捨選択する姿勢が必要です。

岡部先生 今は大量の情報を、簡単に手に入れることができます。しかし、手に入れた情報が「正しい情報なのか?」「一般的な情報なのか?」ということは、自分で判断しなければなりません。ニュースなどで「重症の患者が発生した」「患者に異常行動が見られた」といった話を聞くと、不安を感じてしまうのは分かります。しかし、感染症対策は「正しい知識」と「日常生活を妨げない対策」で相当な効果が得られる――そのことも理解してほしいと思います。
 感染症は、めったに罹らない(確率は低い)ものかもしれませんが、いったん罹ってしまうと、重い症状になる一定のリスクがあります。私は、感染症対策は「防犯」に例えて説明することがあります。鍵を掛け忘れたからといって、直ちに泥棒が侵入するわけではなく、大体は大丈夫ですが、泥棒にとっては侵入しやすくなります。不運にもたまたま泥棒に入られたら、大変な被害を受けることになります。その時には「鍵をかけておけばよかった……」となります。そしてその鍵は1つではなく2つにすればより安心、とも言われます。小さな注意をいつもしておくことで、大きな防犯になります。
インフルエンザもその他の感染症も同様です。正しい情報を入手して、適切に備えれば、リスクをかなり下げることにつながります。
 普段から「日常生活の中で無理なくできる対策」を習慣づけると同時に、感染症の動きの情報を正しく受け取り、日常生活の中に活かしていただければ、と思います。

 

――ありがとうございました。 


【参考資料】
国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
「注目すべき感染症:インフルエンザ 2025年 第1~49週(2025年12月10日現在)」
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/featured/2025/49/index.html
「過去10年間との比較グラフ(週報) インフルエンザ」
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/graph/weekly/Influenza/index.html