2024.02.26 第12回衛生コラム HACCP及び食品安全マネジメントシステムにおける洗剤の管理について

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第12回 衛生コラム

テーマ:HACCP及び食品安全マネジメントシステムにおける洗剤の管理について 

株式会社アルボース
生産開発本部 商品クリエイト部 衛生システム東日本開発課
伊井 宏
FSMS審査員(JRCA登録No.F1099) 
 

 当社は業務用洗剤の製造販売をしており、食品工場等でも当社の各種洗剤をご使用いただいております。2018年に食品衛生法が改正され、いわゆる「HACCP制度化」が施行されてから、HACCPや食品安全マネジメントシステムにおける洗剤の管理についてのお問合せが寄せられることが増えております。

今回、HACCPや食品安全マネジメントシステムで求められる洗剤の管理について解説しますので、参考にしてください。 


1.
HACCPで必要となる洗剤の管理 


 「HACCP」は食品製造における衛生管理方式であり、「危害要因分析重要管理点」と訳されます。このHACCPでは、食品を製造するにあたり原材料や製造工程に潜んでいる危害要因を列挙し、最終製品にそれらが残り健康危害につながらないように管理手段を設定します。HACCPについては、当社ウェブサイト「衛生ひろば」の「HACCP HACCP - 株式会社アルボース (arbos.co.jp) 」を参考にしてください。

 危害要因は、「生物的」、「化学的」、「物理的」の三種類に分けて考えられ、洗剤は一般的に食品に残存することで「化学的危害要因」となり得ますが、当社の洗剤を含め通常の食品工業用洗剤は、決められた使用方法で使用することで健康危害にはつながらない仕様となっています。そこで、洗浄手順(衛生作業手順)を標準化し、それを徹底することで重要な管理手段を必要とする重大な危害要因とはならないのが一般的です(表1参照)。 



1:鮮魚一次加工における危害要因分析の一例 



2. ISO/TS22001-1
が要求する洗剤の管理 
 


 食品安全マネジメントシステムのISO22000やFSSC22000はHACCPを含む規格なので、前述したように、正しい使用手順を徹底することが必須です。その他、FSSC22000の要求事項にはISO/TS22002シリーズが含まれます。また、ISO22000の要求事項でも前提条件プログラム(製品、製品加工工程及び作業環境での汚染の防止及び低減するための計画であり、一般衛生管理プログラムと呼ばれることもあります)を決める場合にISO/TS22002シリーズの該当する部を考慮することを推奨しています。ISO/TS22002シリーズはISO(国際標準化機構)が発行する「食品安全のための前提条件プログラム」に関する技術仕様書であり、業種別にシリーズ化されています(表2参照)。今回は、食品工場などの食品製造業が対象となるISO/TS22002-1の要求事項について確認します。 


  参照番号   対象となる業種 
ISO/TS22002-1  食品製造 
ISO/TS22002-2  ケータリング 
ISO/TS22002-3 
農業 
ISO/TS22002-4 
食品容器包装の製造 
ISO/TS22002-5 
輸送及び保管 
ISO/TS22002-6 
資料及び動物用食品の生産 
表2:食品安全のための前提条件プログラムに関する技術仕様書と対応する業種 

 
(1)5.7 食品、包装資材、材料及び非食用化学物質の保管及び16.2 倉庫保管の要求事項 

5.7 食品、包装資材、材料及び非食用化学物質の保管

清掃・洗浄剤、化学薬剤及び他の危険物質に対して、別の安全な(鍵が掛かるか、さもなければアクセス管理されている)保管区域が提供されなければならない。 

16.2 倉庫保管の要求事項

廃棄物及び化学薬剤(清掃・洗浄用品、潤滑油及び殺そ・殺虫剤)は別々に保管されなくてはならない。 

 これらの要求事項により、食品製造施設での洗剤の保管には、食品とは別の鍵が掛かる保管庫での保管や持ち出し状況の記録などの出納管理が必要となります。

  





(2) 8.5 清掃・洗浄プラント、器具及び装置 

 

8.5 清掃・洗浄プラント、器具及び装置

ウェット及びドライの清掃・洗浄プログラムは、すべての機械装置、器具及び装置が定められた頻度で清浄化を確実にするため文書化されなければならない。プログラムは、何が清浄化されるのか(排水管を含む)、責任、その清掃・洗浄方法(例えば、CIP/COP)、許可された清掃・洗浄用の道具の使用、除去、又は分解条件及び清掃・洗浄の有効性の検証方法を規定しなければならない。  

 この要求事項により、食品製造施設での洗剤の使用においては、「洗浄の対象物や対象となる区域」、「洗浄に関する責任者」、「洗浄の方法及び頻度」、「モニタリング及び検証手順」、「清掃・洗浄後の点検」、「開始前の点検」を規定し、「標準衛生作業手順書(SSOP)」として文書化する必要があります。

 





(3) 11.1 清掃・洗浄及び殺菌・消毒(一般)及び11.5 サニテーションの有効性のモニタリング  

11.1 清掃・洗浄及び殺菌・消毒(一般要求事項)

清掃・洗浄及び殺菌・消毒プログラムは、食品加工装置及び環境が、衛生的な状態に維持されることを確実にしなければならない。プログラムは、継続的に適合性及び有効性が監視されなければならない。  

11.5 サニテーションの有効性のモニタリング

清掃・洗浄及びサニテーションプログラムは、それらの継続的な適合性及び有効性を確実にするために、組織によって特定された頻度でモニターされなければならない。 

 これらの要求事項により、前述したSSOPの手順により十分な効果が現れていることを決められたタイミングで確認する必要があります。一般的には、洗浄後の対象物の清浄度検査や微生物検査、洗浄した対象物を用いて製造された食品の分析などにより有効性の確認が行われます。  







(4) 11.2 清掃・洗浄及び殺菌・消毒用のための薬剤及び道具  

11.2 清掃・洗浄及び殺菌・消毒用のための薬剤及び道具

清掃・洗浄及び殺菌・消毒用材及び化学薬剤は、明確に識別され、食品用グレードであり、隔離して保管され、メーカーの指示にのみ従った使い方で使用されなければならない。  

 この要求事項により、食品工業用の洗剤を、隔離して保管し、洗剤メーカーが示す使用方法で使用する必要があります。 

<食品用グレードの洗剤について>
米国では、メーカーが食品用グレードとして申請した洗剤等を食品医薬品局(FDA)が審査し、登録する制度があります。一方で、我が国には同様の制度がなく、一般的にメーカーが食品工業用として提供する洗剤が食品用グレードとして取り扱われます。 

(5) 11.3 清掃・洗浄及び殺菌・消毒プログラム  

11.3 清掃・洗浄及び殺菌・消毒プログラム

清掃・洗浄及び殺菌・消毒プログラムは、施設及び装置のすべての部分について、清掃・洗浄装置の清掃・洗浄を含め、決められたスケジュールで清掃・洗浄及び/又は殺菌・消毒されることを確実にするよう、組織により、構築され、及び妥当性が確認されなければならない。   

 この要求事項により、前述のSSOPが決められた頻度で実施されていることやその結果を確認する必要があります。一般的には、洗浄に関する責任者が、洗浄が実施されたことや衛生的な状態になったことを確認し、その結果を記録することなどが行われます。   





3. FSSC22000追加要求軸Ver.6.0が要求する洗剤の管理  
 

 

 現在、我が国で最も認証取得されている食品安全マネジメントシステム規格がFSSC22000です。FSSC22000の要求事項は「ISO22000」、「ISO/TS22002シリーズ」、「FSSC22000追加要求事項Ver6.0」の3つの要求事項で構成されています。「FSSC2200022000追加要求事項Ver6.0」では、「洗剤」に関する要求事項はありませんが、次の要求事項により、洗剤の使用が決められた手順により行われ、それにより意図する結果が得られているかについて定期的にリスクに基づき評価することが求められています。 


2.5.7 環境モニタリング(フードチェーンカテゴリ BⅢ、C、I、K)

a)関連する病原体、腐敗物、指標生物に関するリスクに基づく環境モニタリングプログラム

b)製造環境による汚染防止のためのすべての管理手段の有効性を評価するための手順書で、これには最低でも、実際の微生物及びアレルゲン管理手段の評価を含めなければならない。また、法的及び顧客要求事項を遵守しなければならない。

c)定期的なトレンド分析を含む、環境モニタリング活動のデータ

d)環境モニタリングプログラムは、少なくとも年に1回、必要であればそれ以上の頻度で、継続的な有効性と適切性を見直さなければならない。これには以下の誘因が発生した場合が含まれる。

ⅰ.製品プロセス、または法令に関する重大な変更

ⅱ.長期間にわたって肯定的な検査結果が得られなかった場合

ⅲ.環境モニタリングに関連した、中間製品と最終製品の両方に関連する規格外の微生物的

ⅳ.日常的な環境モニタリングで病原体が繰り返し検出される

Ⅴ.組織が製造した製品に関連する警告、リコール、または回収がある場合

2.5.12 PRP検証(フードチェーンカテゴリBⅢ、C、D、G、I、及びK)

ISO22000:2018 8.8.1に次の追加要求事項が適用される:
組織は、サイト(内部及び外部)、製造環境、処理設備が食品安全性のために適切な状態に維持されていることを検証するために、定期的な(例えば月次)サイト検査/PRPチェックを確立、実施、維持しなければならない。サイト検査/PRPチェックの頻度及び内容は、規定されたサンプリング条件でのリスク及び関連する技術標準に基づかなかければならない。 



4. まとめ   
 

 

 HACCP及び食品安全マネジメントシステムを運用している食品製造現場では、洗剤が食品に残存することを防ぐために、食品とは別のアクセス管理された場所で洗剤を保管することが求められます。また、食品工業用の洗剤を洗剤メーカーが定めた方法で使用する必要があります。さらに、この洗剤の使用によって、意図した結果(食品ハザードの除去又は低減)が得られていることを定期的及び必要に応じて評価することが求められます。




参考:
・日本規格協会「(対訳版)ISO22000:2018食品安全マネジメントシステム-フードチェーンのあらゆる組織に対する要求事項
・日本規格協会「ISO/TS22002-1:2009食品安全のための前提条件プログラム-第1部:食品製造」
・FSSC財団「FSSC22000スキーム 第6.0版/2023年4月」